元旦のドーナツ屋さん

前回、ドーナツ屋さんでバイトしていた鏡餅先輩のことを書きましたが、実は僕もドーナツ屋さんでバイトしていました(紳士的な名前のあのチェーン店です)。

金沢市中心部の香林坊というところにある店だったのですが、この店が1年で最も忙しくなるのはいつだと思いますか?

観光客の多いゴールデンウィーク?ハロウィン?クリスマス?

正解は「1月1日」、つまり元日です。

金沢市には金澤神社、石浦神社、尾山神社など神社が集中しており、2年参りに来た人達が帰りにドーナツを買って帰るのです。

僕の働いていた店は普段夜の12時まで開いていましたが、このため大晦日だけは翌朝5時(!)まで営業していました。

そして朝7時には再び開店します。
それならいっそのことずっと開けておけばいいじゃないか、と思うのですが、そこはなぜか一旦店を閉め、2時間後にまた開けていました。
店内の清掃なんかは別に店を開けながらでもできますので、理由は謎です。

世間では「ゆく年くる年」が流れ、まさに年が明けるかという頃になると、店が混み始めます。

しかしこれはまだ序章にすぎません。2年参りから帰ってきたお客さんが急激に増え始める0:30ぐらいからが真の闘いです。

ここからの混み方はマジで尋常ではなく、年末のアメ横もなんのその、といった具合です。なにせ店内が隙間のないほどに人で埋め尽くされるのです。本当です。

狂瀾怒濤のドーナツ祭、ここに開幕です。

すごい。
なんなんだこの光景は。
金沢市にはこんなに人がいたのか。

もはや誰がどこにどう並んでいるのかさっぱりわかりません。
なんならお客さんにはお賽銭感覚でカウンターにお金を投げてもらい、こちらは一足早い節分の気持ちでドーナツを投げ返す、たぶんそれでも成立しそうです。

おそらくこの瞬間、店内の人口密度は金沢市どころか北陸全域でも最大値を叩き出していたと思います。

午前1時を回りました。

店内ではテーブルやイスはもちろん、床すらもまったく見えません。
目の前には人人人、ただそれだけです。

とにかくおびただしい数の人が次々とカウンター目掛けて突進してきます。怖いです。
人間、時には引くことも大切だと思うのですが、揃いも揃って初詣のおみくじで「引かぬが吉」とでも出たのでしょうか?

ここは神社じゃないけど、一応神様に「みんなが落ち着きますように」とお願いしておきました。

ドーナツは作っても作っても、並べるそばからまさに飛ぶように売れていきます。

みなさんドーナツお好きなんですね。
心の中で話しかけながら、僕も負けじと高橋名人の16連射(古い)もかくやとレジの乱れ打ちです。

ちょっとぐらい打ち間違えても、正月なのでええじゃないかの無礼講です。
レジ画面の切り替わりの時間さえもどかしい。この空間ではとにかくスピードこそが正義です。

この2年参り狂騒曲も夜中の2時を過ぎると少しずつ落ち着きはじめ、3時を過ぎるとさすがに静かになってきます。

宴は終わった。
そんな栄枯盛衰を感じつつ、5時になったら店を閉め、掃除をし、2時間後の開店に向けた準備をします。

7時になると次のシフトの人が来て、僕はここで交代。お役御免で家路につきます。

外に出ると夜が明けており、人はほとんどいません。
ほんの数時間前の喧騒が幻のようです。

心地良い疲れと大きな達成感を抱え、このまま寝るのはなんだか少しもったいない気もしたけれど、やはりまずは帰って寝ることにします。

これは僕の人生の中で、最高に気分の良い年明けでありました。

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