クレープとおじさんと鳩

クレープというとなんとなく「若い人や女性が好む食べ物」というイメージがありませんか?
なので、僕のようなおじさんが1人でクレープを買いに行くのはけっこうな勇気がいります。

もし店員さんから「あなたに食べさせるクレープはありません」とか言われた日には破滅である。
それかお客さんの誰かが思わず通報しちゃうかもしれない。
もしこんなことが起こったら、僕はもう一生クレープを食べられないだろう。

確かに自分がクレープ屋さんに並んでいるところを想像すると割と怪しい気はする。そこは自覚しています。
しかし、買いに行かなければ始まらないので、意を決して行ってみることにしました。

せっかくなら僕がクレープを買うと何が起こるのか正確に見極めるために、Xデーは最も人が多いと思われる日曜の午後に決定。

結論から言うと怪しまれることは一切なく、全然問題ありませんでした。
販売拒否も通報もされることはなく、僕の心は救われました。

ちょうど僕の前に同年代の男性が並んでいたのも心強かった。その方も少しだけ気恥ずかしそうにしていた(ように見えた)ので、僕は心の中で「お互いがんばりましょう」と一声かけておきました。
ただ、予想していなかったことがいくつか起こりました。

まず、店員さんが「この道50年の達人」的な雰囲気を醸し出している、かなりご年配のおばあさん1人でした。
偏見で申し訳ないのだけれど、僕は勝手に「クレープ屋の店員さんは若い人だろう」と思い込んでいたため、予想外だったと同時に、不思議と安心しました。

やはり日曜のせいか混んでいる。僕の後ろにどんどん人が並んでいきます。ここでもせっかくなので、メニューの中で最も可愛らしい「ピーチホイップクリーム」を注文。

しかし、さすがは達人。こんなおじさんが可愛い注文をしても眉ひとつ動かすことなく無反応です。

けれど、僕が千円札で払おうとしたら、「小銭が不足しています」と書かれた札をカウンターに無言で置かれ(しかも叩きつけるような勢いで)、多少の圧を感じました。

それでも対峙するこちらだって覚悟して来ている身。ここで怯むわけにはいきません。達人が焼く様を目に焼き付けようと、改めて気合いを入れます。

でもちょっと待って達人、それは焼き過ぎでは?
生地がみるみる焦げ茶色になっていきます。しかも巻く時に具材のピーチを鉄板の上に落としてしまいました。

しかしここでもまったく動じない達人。異次元の集中力。もはやゾーンに入っています。いや、既に人間を超越した存在なのでしょうか?

傍らでジュージューとまるで焼き肉のような音を立てるピーチ。香ばしい。

それでも最後にクリームをトッピングしてクレープは完成。さっそく食べてみました。

噛んだ途端に「パリパリ」と乾いた音が響きます。その音はポテトチップスのそれと酷似していました。
クレープって柔らかいと思ったけど、こんな音したっけ?まあ味は良いけど。

あまりにパリパリなので、食べるたび欠片が道に落ちてしまいます。だけど大丈夫。この店の周りには鳩がいて、落ちてくるクレープの欠片を食べてくれるんですね。だから道は汚れません。

この鳩、達人の作るクレープがパリパリで欠片がこぼれることを知っているのか、お客さんのそばで待機しており欠片が落ちると即座に食べてくれます。

僕の方はだんだんと食べるのがうまくなり、ほとんどこぼさずに食べられるようになりました。

その時の鳩は「こぼさないのかよ」みたいな険しい表情でこちらを見ており、なんとなく申し訳ない気持ちになりました。
だから最後にクレープの包み紙にたまった欠片を鳩へプレゼント。

「いいんですか?」と目を丸くする鳩。まるで豆鉄砲をくらったようです。すごい勢いで欠片をむさぼり食っていました。

「こちらこそありがとう。いつかまたここで会おう」鳩にお礼を言おうとしたその時、鳩は既に隣でクレープを食べていた親子のところへ移動していました(僕の次に並んでいた親子で、偶然にも同じ「ピーチホイップクリーム」を注文していた)。

仲間意識を持っていたのは僕だけで、思ったほど向こうは僕のことが眼中になかったみたいです。それでも僕が帰ろうとすると、ちょっとだけこちらに寄って来てくれて嬉しかったです。
またクレープの欠片をくれると思っただけかもしれないけど。

こうして僕のクレープ体験はとても楽しいものとなりました。

僕と同じように「本当はクレープが好きなんだけど、なんとなく買うのを躊躇してしまう」という方は他にもいると思うのです。
しかし安心してください。周りの人達はあなたが思っているほど、クレープを買うあなたを気にしていません。
気にせずどんどんクレープを買いに行きましょう。もしかすると達人の店員さんや鳩にも出会えるかもしれませんよ。

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